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“artext.design”はただのブログです。 一見、何の変哲もない静かなブログですが、 いつでも野望は100万PV。 私は文で呼吸したい。


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或る老人 たぶん世界一幸せ

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その老人は目が極めて悪く耳は聞こえない。それでいてよく喋る。以前は熱心な仏教徒であったようだがやや性格に難がある。

例えば、私は仏様の教えで人を恨まないよういしていると言いながら、自らの足を見せ、あのお婆さんに蹴られてこうなったと恨み言を吐く。それが事実なら仕方がないのだが、その黒ずみは後日程なくして悪性黒色腫(メラノーマ)であることが発覚した。完全なる冤罪であったのだが、それを未だに言い続けている。よほどそのお婆さんが嫌いだったんだろう。施設に実習に来る学生にはその話をしながら、あのお婆さんはね心が汚いからああ(意志の疎通もとれなほどの認知症)なったんだよ、仏様はよく見ているんだ、でも私は憎んではいないんだ、などとひどい説法をする。

彼女はまさに目も耳も閉ざした状態の中にいる。誰も彼女の間違いを指摘することはできない。彼女は自分の中に完全なる世界を築いている。まさにPerfectWorld。僅かに見える視界にいる人間の表情を観ることもできない。ただそこにヒトがいて、自分の話を“今”聞いてくれているという事実のみが彼女には大事で、いかに馬鹿にされていようが、煩わしさを露骨に表情に出されていようが関係ない。聞いてくれているその時間で彼女の承認欲求は満たされている。

その老人は私が思うに、出会った中で一番、、、いや、たぶん世界で一番幸せな老人だ。

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